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丸田恭子


 私達の体、そしてそれを取り巻く宇宙は多くの謎に包まれて存在している。
最近読んだ記事に「神秘の臓器、前立腺」というのがあり驚くことにいまだにその機能がはっきり
とはわかっていないことの多い謎の臓器だという。
 また謎のひとつに私達を取り巻く時空間というものがある。時間の進みが早く感じる昨今時間と
は何なのか興味の対象として膨らんできた。時間とはなめらかに直線的に進む連続体であるとばか
り思っていたのだがどうもそうではないらしい。
 物質を細かくしていくと素粒子があるように時間や空間にも素時間、素空間があるかもしれない
というのだ。この検証結果はいまだ明らかにされてはいないが近い将来答えはわかると思う。また
ある物理学者は相対性理論と量子力学の正しい融合によって時間をいれなくても成立するためそれ
が時間が存在しないということの証明であるという。大量のスナップ写真が同時にあるようなもの
で脳の中で繋げているだけだという。また、神経科学の時間の定義はというと脳の中で積極的に創
り出しているものであり複数の現在として存在し、ただそれが分布しているだけであるとやはり同
じようなことを言っている。また中には時間自体が二つ以上の次元を持っているという可能性をさ
ぐる学者もいる。
 
 時間とはもしかして最も思い込みの激しい概念かもしれない。時間とは何なのか、哲学、物理学
工学、生物学とあらゆる解釈がなされてきたが、考えてみれば私達の意識は瞬時に過去、未来とあ
らゆる空間どこへでも行けることを考えるとやはりないのかもしれない。
 画面を通して時間とは何かという問いと認識のもと、「変容」と「ゆがみ」が力強く立ち上がっ
てくる瞬間を探る作業として画面との対話が続くこととなった。
 そして最後になぜ今回のタイトル「地球の真中でYESと言う」をつけたかと言うと、作品制作の
根底に大きく横たわる覚悟、どんなに大きな謎、矛盾があってもあるいは社会的悲しみ不安、怒り
があっても全受容、全肯定そこからすべてが始まるからである。

 

                                       2012, 夢の庭画廊コメントより

 

 宇宙にはいくつもの秘密がある。異次元世界が私達の三次元空間を取り巻く巨大な時空であることを最近理論

物理学者は立証したが、その謎を解くカギは重力にあるという。何とも魅惑的なわくわくする刺激的なことだろ

うかと考えながら、またこんなことも言われてきている。宇宙を構成する素粒子の在り方と精神意識の在り方が、

量子力学によって証明される特定の姿であるボースアインシュタイン凝縮体というものにより、同一の物理過程

を共有するという。また何とも不思議なことかと思いながら、私は日々の制作を通して科学的世界認識ならぬ絵

画的世界認識を行っていることになるのだと思っている。

 

 精神と物質との対話は相互の働きかけによりどちらかが優位に立つことなく、私達は私達自身であると同時に、

私達と他者あるいは社会、世界、宇宙に対する諸関係そのものであり本質的に結びつきを持ち、関係、関与、影

響しあう。そして、それは一つの凝集した世界へとつながっていく。

 

 まさに相互浸透という概念が作品制作を通して導き出されてきたと思うが、そこから派生して中間領域の確か

な力強さ、ダイナミックな結びつきそれは本当に様々な分野にも当てはまると考えられる。

 

 最近は少し人間社会にも眼が向けられることとなった。薬は人類の歴史と共に自然界からあるいは人工的に造

られることによりずっと使用されてきた。薬はその症状の程度により慎重にその分量を見極めなければならない

が、わずかな違いで死に至る危険を伴う。しかし、その適正範囲(中間領域)においては見事にその効力を発揮

し人体と薬の力強い対話が行われる。何が現実かいなかわからない不安感いっぱいの範疇に身を置かれることも

ある一方、ある領域においては安心感に包まれ、まるで人間社会の縮図がそこにあるようにも思えるのである。

 

 

                                                                                               2009. 関口美術館展覧会コメントより